「敬語の使い方に自信が持てないから上司やクライアントと話をするのが怖い、人前で話をするのが億劫」。働き女子からのそんな声をよく耳にする。
正しい敬語はビジネスマナーの基本、しっかり押さえておきたいところだが、普段使わない言葉はとっさに浮かんでこない。体の筋肉と同様、普段から鍛えていないといざという時にスムーズに使えないものである。
そもそも敬語は、時代の流れで変化する。以前は正しいとされていたものが、より自然で気持ちの伝わりやすさを重視した結果、別の言い方がふさわしいとされるケースもあるのだ。
一方で、誤った使い方が頻繁にされているものもあり、なにが正解なのか余計に混乱するのも難点。
そこで今回は、文科省の諮問機関である文化審議会が出した『敬語の指針』をもとに、“一瞬言葉に詰まってしまう、とっさの敬語”について、ホスピタリティコンサルタントである筆者よりご紹介したいと思う。
■「とんでもない」を丁寧に言うと?
たとえばお客様がお礼をあなたに言ったとしよう。さて、なんと答えるのがふさわしいだろうか?
以下の中から選んでみてほしい。
(a)いえいえ、たいしたことではありませんので、お気になさらないでください
(b)とんでもございません
(c)とんでもありません
(d)とんでもないことです
注目してもらいたいポイントは「とんでもない」という形容詞の使い方にある。
「とんでもない」は、これ全体で一つの形容詞 であるため、「ない」の部分が変化することはないと長年言われてきた。つまり「とんでも・ございません」や「とんでも・ありません」に変化させるのは間違いであるとされてきたのだ。筆者も現役CA時代に、「とんでもないことでございます。とお答えするように」と教育されたのをよく覚えている。
ところが、文科省の『敬語の指針』によると現在は以下のように考えてよいようだ。
<「とんでもございません 」「とんでもありません」は、相手からの褒めや賞賛 などを軽く打ち消すときの表現であり、現在では、こうした状況で使うことは問題がないと考えられる。>
つまり答えは、(b)、(c)、(d)のいずれであっても正解、ということなのだ。ただし、(d)は相手のねぎらいや褒めの行為自体を否定しているような誤解を与えることもあるので、状況に合わせて注意が必要だ。
■敬語とは違う“敬意表現”
では、(a)はどうだろう。文科省の『敬語の指針』によると……、
<敬意表現とは、コミュニケーションにおいて、相互尊重の精神に基づき、相手や場面に配慮して使い分けている言葉遣いを意味する。それらは話し手が相手の人格や立場を尊重し、敬語や敬語以外の様々な表現から適切なものを自己表現として選択するものである。>
となると、(a)は正しい敬語とは言い難いかもしれないが、“相手への敬意の気持ちがよく伝わる表現”という見方もできるのだ。
以上、今回は一瞬言葉に詰まってしまう敬語のひとつ、「どういたしまして」の尊敬語の使い方についてご紹介したが、いかがだろうか?
言葉は生身の“ひと”が紡ぐもの。“ひと”が生きる時代とともに形を変えるのは、ごく自然なことと言える。
敬語を画一的に“正しいか誤っているか”だけで捉え、「この敬語さえ使っていれば大丈夫!」と片付けてしまうことは危険だ。
尊重の精神に基づいて、相手や周囲の人やその場の状況に合わせて、自分の気持ちを素直に表現することを大切に、日本の文化ともいえる敬語を味わって使っていきたい。